なかなか妊娠しない原因は?
せっかく受精卵ができても、なかなか妊娠できない場合について、英ウィメンズクリニックの塩谷雅英理事長に教えていただきました。
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英ウィメンズクリニックは、国内最高水準の治療と実績を誇るクリニックとして有名です。
元々は2000年に神戸市垂水区で塩谷理事長がお一人で開業されましたが、その後三宮クリニック、西宮クリニックと現在では20名を超える多くの医師が治療にあたっています。
経験豊富な女性医師が多く在籍している事も、患者さんの立場からすると心強いでしょう。
また、同じビルには男性不妊専門の「英メンズクリニック」があり、不妊に悩むカップルと医師が一緒に治療を行う環境が整っています。
[理事長:塩谷雅英医師]
妊娠不成功は受精卵の問題、それとも子宮の着床の問題?
体外受精(顕微授精)では、良い受精卵を移植できれば高い妊娠率を期待できますが、その一方で良い結果にならないこともあります。
一般的には良い受精卵を移植できた時の妊娠率は50%前後です。
では、なぜ良い受精卵を移植しても妊娠できないことがあるのでしょうか?それは、受精卵が出来る過程で、受精卵の染色体異常がかなり頻繁に起こるためです。
受精卵の20%以上に染色体異常があることがわかっていますし、年齢によっては、80%の受精卵に染色体異常が生じることもあります。
そこで、近年は、移植する前に受精卵の染色体検査を行う方法、すなわち着床前染色体スクリーニング検査(PGT-A)が盛んに行われるようになってきました。
我が国の報告では、着床前染色体スクリーニング検査で染色体正常胚を選択して移植することで妊娠率は70%前後と高くなることが報告されました。
この結果からも、妊娠不成功の原因として受精卵の染色体異常が大きな位置を占めていることが再認識されます。
しかしながら、正常胚の移植によっても、およそ30%は妊娠不成功となるということでもあり、着床の問題(着床不全)がクローズアップされてきています。
着床不全の原因
母体側の要因として、肥満、喫煙、飲酒、不規則な生活、睡眠不足等が原因として報告されています。
他には、卵管水腫、子宮筋腫、子宮腺筋症、子宮腔癒着、子宮形態異常、等も原因となります。これらに加えて、近年は免疫の問題、慢性子宮内膜炎(CE)、子宮内細菌叢の異常、着床の窓(WOI)の問題、等々もクローズアップされています。
着床不全の頻度は?
前述した通り、着床不成功の原因として最も頻度が高いのは胚の染色体異常に代表される胚側の要因と考えて差し支えないのですが、その一方で着床の問題のために繰り返し不成功となる場合も10〜15%程度とされており、良い受精卵の移植、あるいは染色体正常受精卵の移植が不成功に終わった場合には、着床検査やその結果に基づいての治療が積極的に行われつつあります。
しかしながら海外の報告では、着床の問題は意外と小さいものであり、過剰検査にならないように、着床検査を患者様に提案するタイミングは慎重に検討すべきであると警鐘を鳴らしています。
着床の窓(WOI)
着床の問題を考える時にホットなトピックスとして、着床の窓、そして、それを調べるERA検査がありまます。
動物実験やヒトで研究の結果から、子宮には、受精卵を迎え入れることのできる着床の窓が存在すること、そして受精卵の移植は、この着床の窓に同調させて行うことが重要であることが従来より指摘されていました。
さらに、2011年にはこの着床の窓を調べる検査としてERA検査が報告されました。通常、着床の窓は月経周期の19日目から22日までの4日間の中に存在し、30時間から36時間持続するものとされています。
この、着床の窓をあらかじめ調べておき、受精卵と子宮を同調させて受精卵の移植を行う、すなわち、個別化移植を実施することで治療成績の向上を期待できることが報告されています。しかし、この着床の窓を調べるERA検査の有効性については未だ評価が定まっていないのが現状です。
ERA検査の有用性については賛否両論 -その理由-
ERAの有効性に関してはいまだに賛否両論があります。
そもそも着床は、胚受容能を獲得した子宮内膜と、着床能を有する受精卵との間に成立するものです。
ERA検査では胚着床の窓を捉えますが、受精卵の着床能についての議論が欠落しています。もし、受精卵が着床能を発揮する時間が短時間であればERA検査の有用性は高くなりますし、反対に、受精卵が着床能をある程度持続できるのであれば、着床の窓が開く前の移植でも着床を期待できることになり、ERAの有用性は低下することとなります。
着床の成功には受精卵と子宮内膜の両者が重要であり、子宮内膜の着床の窓を検査するERA検査の有用性についての評価が分かれるのも無理はないのかもしれません。
子宮内に移植された受精卵の寿命(着床能を維持できる時間)
それでは、子宮内に移植された受精卵はどれくらい着床能を維持できるのでしょうか?
多くの哺乳動物種において、子宮内に入った受精卵は着床するまで数日から数カ月にわたって着床能を持続できることが分かっています。
ヒトでも、子宮内に移植された受精卵が数週間後に着床したとする事例報告があるのです。
まとめ
着床前染色体スクリーニング検査が広く行われるようになっています。
その結果、染色体正常受精卵の移植でも30%以上は出産につながらないという事が明らかとなり、着床の問題がクローズアップされるようになってきました。しかしながら着床に関してはいまだ不明な点も多く、実施される検査・治療の中には今後その有効性が解明されるべきものもある。
妊娠不成功に直面したときは受精卵の問題か子宮の問題か、慎重に検討し、より良い選択肢を皆様にご提案できるようにしていきたいと考えています。
英ウィメンズクリニック理事長:塩谷雅英(産婦人科専門医・生殖医療専門医・臨床遺伝専門医)